図解で分かる、核兵器がいつか発射される理由

概要
これまで私は「核兵器は抑止力であって、実際に使われるようなことはないだろう」と思っていました。人間は主に報酬系によって行動を決める生き物であり、核兵器は使っても利に繋がるパターンがほとんどない、というのがその理由でした。

しかし生物の本質という点を考えてみると、実はそれは違うのではないかという疑問を抱くようになりました。結論からいけば、いつか未来、核兵器は使用される可能性があります。そしてそれは生物が持つ総当たりという本質に起因するものです。
生物は総当たりで進化の方向性を探る
ご存知のように、生物は原始の海より生まれました。当初は単一の細胞で構成されていた生物ですが、長い年月をかけて徐々にその構成を複雑なものへと変えていき、人間に至っては60兆とも100兆とも言われる細胞を組み合わせるまでになっています。

では、どうやって生物はそこまで複雑な構成にたどり着いたのでしょうか。

当初は自身のコピーを生み出すうちに発生する劣化が、進化の鍵になっていました。

単細胞生物のコピー

原初の生物は、上の図のように自らのコピーを生み出し、徐々に数を増やしていきました。このコピーをする際に、Aが生み出すのは全く同一のAではなく、Aダッシュ(ほぼAと同一だが僅かに違う)を生産します。

そして生み出されたAダッシュたちの中で、生存に適したものが生き残り、適さないものは自らのコピーを残すことなく死滅していきます。

生物の経路

この時、生物はけして「こういうパターンを生み出せば生き残る公算が高い」などとは考えません。ここで行われている処理は単純な試せるパターンの総当たりです。その為、時として生物は生まれた瞬間に死亡してしまうような、全く生存に敵していないパターンを生み出すこともあります。

これを見て分かる通り、生物は「生存 and 生殖 = 正」であり、「非生存 or 非生殖 = 偽」という命題を背負って新しいパターンを生み出し続ける、1つのジェネレータのようなものです。
人間の場合の進化の探り方
生物は進化の過程で「雌雄」というものを手に入れます。人間で言えば「男と女」ですね。

ある程度の複雑さを得た生物にとって、「雌雄」はより多くのパターンを簡易に試せる素晴らしいシステムです。

AがAダッシュを生み出すだけでは試せるパターンは知れていますが、雌雄が存在すれば結合したAとBの特徴をランダムに採用し合うことで、より自身とは違うパターンを簡易に生み出せるのです。

雌雄を持つ生物のコピー

上の例では「A」と「B」はお互いからしか子孫を残していませんが、「A」は「B」と子供を作った後、別の固体「F」と子孫を残す(人間に例えるとバツイチか浮気)こともできます。そうすれば、より生まれる存在のパターンを増やせますね。

ところで少し話は逸れますが、なんで多くの国家は重婚を認めてないんでしょうね。いろんなパターンの子供を生み出せた方が効率が良いですし、良い個体がたくさんの異性との子を作りやすくなるので、良いことだと思うのですが。食物連鎖の頂上にいる種の余裕かもしれませんね。

ともあれ、雌雄というシステムの効率の良さを見ても分かる通り、人間を含む生物は今でも原初の姿勢を忘れず、より生存に適した個体をパターン総当たりによって探っているわけです。
人間に見られる総当たりの特性
さて、人間は今でも原初の意志を忘れず総当たりを続けています。生まれてくる個体を見ても分かる通り、生存に向いた個体、生存することが難しい個体がランダムに生み出されています。そして、それらは親に似つつ同時に違う特性を見せ、一部は生殖行為を行い子孫を残し、一部は絶滅していきます。

生まれてきた個体は、同じ種であれば概ね似た外観をしており、また概ね似た思考の傾向を有しています。

しかし総当たりの性質上、その中には特殊な外観を持った個体が生まれることもありますし、「特殊な報酬系」を持つ個体が生まれる場合もあります。

例として、人の特性を端的に示す図を見て頂きましょう。

人間の性癖の分散

このように、人間の性癖は「一般的」と呼ばれるものから「それは犯罪だろ」と言われるものまで、美しく分散しています。

これは性癖に対してだけではなく、あらゆる特性において生物は分散しています。このいい加減な分散ジェネレータで配置される点のように。

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世界を滅ぼす個体の生まれ方
生物は生存と生殖を正とすることは前項までに書きましたが、その存在・行動の成否は子孫が生き残ったかどうかによって判定されることで、生存している当人はそれに縛られません

もし生物が生存と生殖を必ず正とするようにプログラムされているなら、年に何万人も自殺をすることもありませんし、少子化が進むこともありません。個体が生み出されるロジックがランダムである以上、誕生する全ての個体が種の生存と生殖を優先するなどということはありえません

現在存在する個体は生存競争に勝利してきた存在であり、生存と生殖に対して肯定的な能力を持っているものです。しかし、そこから生まれる個体が低確率で生存能力を保持していないケースがあるように、自らが属する種の保存に対して肯定的であることは保証されていないのです。

世界を滅ぼしたい人が分散する例

これは「可能な要素を全て試そう」とする、生命という総当たりプログラムの持つ1つの特性です。生命は自らの進化に対して安全装置を持ってはいないのです。

一般的に、1つの個体が暴走することによって1つの種が壊滅的打撃を受けるようなことは発生しづらいものです。1つの個体の力はその他大勢の力よりも小さいからです。

種の保存を悪しとする個体の立ち位置

しかし事が核兵器になると話は変わってきます。人間は「種の反映を望まない少数の個体」によって壊滅してもおかしくない兵器を作ってしまったのです。
世界を滅ぼす固体の行動原理
私たちが日々生きている上で、「この選択肢に対しては、こういう行動を取った方が正解だよな」と考えることがあります。その時、私たちの脳はどういった基準で解答を演算しているのでしょう。

よく言われている存在が報酬系です。報酬系は快楽を司る神経系で、マウスの実験では実験体の報酬系を刺激する電極のスイッチを押すことをマウスに教えたところ、その個体は際限なくそのスイッチを押し続けるようになったという現象が報告されている、行動と強く紐づいている(かもしれない)存在です。

例えば、生物が下記のような状態に生物が置かれていたとします。

報酬への道のり

「現在地」から一番近くにある報酬は「快楽C」ですが、その過程に障害が1つ横たわっています。「快楽C」にたどり着くには、迂回するなり障害を打破するなりの努力が必要です。

「快楽B」は快楽Cとそれほど変わらない距離で、障害もありません。

「快楽A」は距離も遠く、そこに到るまでの間に障害まであります。その代わり、快楽の大きさは他の2つの要素より大きくなっています。

こういった状況に置かれた場合、人間の場合は手軽に快楽Bを選ぶか、計画を練って快楽Aを目指すかのどちらかを選択するかで行動が分かれることが予想されます。このように、一般的と呼ばれる分類に入る人間でも、行動の取捨選択には差が出てきます。

また、「何を快楽とするか」という点についても、固体によって大きく差が出ます。例えば同じ両親から生まれ、同じ家庭に育った兄弟であっても、兄は「おいしいものを食べる」ことを優先し、弟は「かわいい女の子と仲良くなる」ことを優先する個体であったりする場合があります。この時、兄の脳では食べ物に関する報酬が高くスコア付けされており、弟の脳では異性に関する報酬が高く設定されていることになります。

兄と弟の快楽への報酬点数の違い

では、核兵器を世界に対して発射する人間の思考はどういったパターンを取るでしょうか。

まず、核というものは簡単に手に入るものではありません。ぶっ放すまでには物凄い量の障害が待っています。ということは、近くの小さな報酬よりも遠くの報酬を優先するタイプである必要があります。タイプ的には、将来必ず総理大臣になると小学校の作文に書いて、実際になってしまうようなタイプが理想です。

兄と弟の快楽への報酬点数の違い

その上で、核兵器をぶっ放したいという願望を持つような変態的な分散の局地に位置しなければならない。一般的に生命は生存と生殖に肯定的な分散を示す場合が多い為、図にするとこれくらい変態的なポジションに位置する必要がある。

変態的立ち位置の局地

これらの条件を満たした存在は多くは発生しない。ただ、生命の性質と母数の大きさ(人類は60億)を考えれば、発生する確率はあると考えた方が自然だ。しかも現在では生産できる国の数が増え、入手の障壁は年々優しくなっている。(もちろん、それでも十分に困難なレベルではあるが)
まとめ
というわけで、人間は核兵器を自らの頭上に降り注がせる性質を保持していますよ、という話でした。

まぁ、ここで書いているような状況で自分が死ぬ確率は、癌か交通事故で死ぬ確率と比べたら小数点以下な話なので、日常的に気にするようなことではないわけですが、性善説的な話とか、人はそこまで愚かじゃないとか、そういう話で語るのはちょっと違うんでないかなという気はしています。

今回指摘したようなパターンの人が現物を手に入れる確率を少しでも減らす為には、とにかく非拡散に努めるという点は大切なことですね。

ところで、分散して可能な限りのパターンを試していく生命の姿って、すごく美しいと思います。長い年月かけて進化したこの生命には、地球の終りも宇宙の終りも乗り切って、末永く存続してもらいたいなぁと、そんな風に思っています。