ラブプラスに見る時間軸方向の擬似同期

概要
この記事は、最近、(局所的に)話題になっているラブプラスという紳士専用ゲームが持つ時間軸方向の擬似同期に着目して、今後のゲームやWEBサービスにおける擬似同期の新しい形を探ろうと試みたものです。

筆者は残念ながら、腐男子と呼ばれる部類の人間らしいので 性癖のズレによりラブプラス自体をプレイはしていません。当記事の内容は、公式ページやニュース、2chのスレを読んだり、プレイ動画を見るなどして感想を集めた情報をもとにしています。

前半は長々と擬似同期の説明をしています。肝心のラブプラスの話が出てくるのは後半になります。
擬似同期について
擬似同期とはニコニコ動画やTwitterの人気を説明する際によく使われる言葉です。

チャットや電話のようなリアルタイムで行われるコミュニケーションを真性同期と呼ぶとします。

真性同期では、同じ時間、同じ場所(チャットの場合は同じURL、電話であれば繋がった電話機)に存在していなければ、お互いの意思疎通ができません。

チャットであれば他人が会話をした過去ログを見ることで、時間がズレても雰囲気は味わえるかもしれませんが、参加することはできません。

一時期話題になったセカンドライフなどは、物事が「時間」と「座標」の2つの条件を満たさなければ参加できないタイプの同期であることから、真性同期のサービスと言えるでしょう。

真性同期の図



対する擬似同期では、どうなるのでしょう。

擬似同期サービスの典型例であるニコニコ動画では、動画の再生時間に合わせてユーザのコメントが流れるという手法が取られています。

例えば長さが10分の動画があって、ちょうど3分頃を見ている時に女性の下着が一瞬見える瞬間があったとします。するとユーザ(男)は「あっ、見えた」と思います。同時に、動画上にも「うはっw」「見えた!」「GJ」(グッジョブの意)などのコメントが勢い良く流れます。

ユーザは自ら「俺にも見えた!」とコメントすることで、その流れに参加することもできます。

このように擬似同期では、ユーザ同士の時間軸がズレていてもコミュニケーションを形成することが出来ます。

擬似同期の図



ニコニコ動画の例 ニコニコ動画の例

左はニコニコ動画で見かけた「オーケストラに勝るハーモニカ」というタイトルの動画のスクリーンショットです。

ハーモニカの独奏による驚くほどハイクオリティな演奏が終わったところで、「ブラボー!」というコメントが大量に飛んでいます。

これらのメッセージは入力された時間はバラバラです。ところが、動画の再生タイミングとコメントを同期させることにより、他のユーザと一緒に動画を見て、一緒に「ブラボー」と言っているような錯覚を得ることができます。

この錯覚をうまく利用して、同時に存在していない相手を身近に感じさせ、コミュニケーションが発生しているように知覚させるのが、擬似同期だと私は勝手に定義しています。

(※IT系の歴史が浅い言葉は声を大にして言ってしまった者勝ちな部分があるので、実際の定義がどうとかは別として、無駄に自信を持って発言しておきます)
ゲームにおける擬似同期の例(デモンズソウル)
擬似同期を上手く利用したゲームの1つに、デモンズソウルがあります。

デモンズソウルとは2009年2月にPS3で発売された近年稀に見る死にゲー(簡単にプレイヤーが死亡するゲーム)です。

ちょっと敵に囲まれればすぐに惨殺され、高所で一歩足を踏み外せば転落死し、その上、初見では絶対にかわせないような敵の待ち伏せやトラップが数多く仕組まれているスリリングなゲームです。

動画サイトはでは、その死にっぷりを共有して盛り上がる光景がよく見られます。

デモンズソウルが採用している擬似同期性が取り入れられたシステムの1つに、「血痕システム」というものがあります。

これは、他のプレイヤーの死亡場所と死に様がネットワークで共有されるシステムです。オンラインでプレイしていると、他のユーザが死亡した場所に「血痕」が描画され、それに触れるとそのユーザの死に様を見ることができます。

ニコニコ動画は「動画の再生時間」という要素を使って擬似同期を行っていましたが、デモンズソウルでは死にゲーであるという点を活かし、「ゲームのMAP上の死亡位置」を通して同期を取ることで、同じ苦労をしている人間がいるという、1人でプレイしているのとは違った感覚を作り出し、複数のユーザの感覚を繋げる(≒一種のコミュニケーションを演出する)ことに成功しています。

血痕システムの説明(デモンズソウル公式ページ)
デモンズソウルの例

デモンズソウルはこの他にも、MAP上にコメントを書き残すことが出来たり、「徘徊幻影」という、ネットワーク上でプレイしている他のプレイヤーの姿が一瞬幻影として見えるというシステムもあります。

どれも「ゲーム内の同じ場所」という共通点を使うことで、真性同期のように時と場所の2つが揃わなくても、ユーザ同士の情報共有(≒コミュニケーション)を実現している擬似同期性のあるシステムです。
擬似同期のメリットその1(参加条件の緩さ)
擬似同期のメリットは2つあります。

1つは「祭への参加条件が緩い」ことです。

セカンドライフとニコニコ動画を比較した記事で、こんな面白いタイトルを付けているものがありました。

「Second Lifeとニコニコ動画の同期性、“後の祭り”と“いつでも祭り”」

セカンドライフでになっている(みんなが集まるような楽しいことが起きている)ポジションに行きたければ、その瞬間をキャッチしてそこへ行かなければなりません。

ところがニコニコ動画であれば、1年前に流行った動画でも盛り上がりの跡が残っていますし、コメントが連綿と続いていたりもします。

擬似同期は「こういうコンテンツが盛り上がってるらしいよ」と聞いて、その1ヵ月後に見に行ってもまだ参加できる場合もあるわけです。これはユーザが1つのに参加する障壁を非常に低くします。



このメリットは、システム管理者側の視点から見れば、「ユーザ数が少なくても盛り上がりを演出できる」とも言えます。

ニコニコ動画のとある動画が、1ヶ月かけて1000のコメントを集めたとします。この場合、1日辺りのコメント数は平均33。1時間に1人~2人という頻度です。真性同期で1時間に1~2人しか人が来ないサービスがあったとしたら、それは「随分と過疎ってるなぁ」という印象を与えることでしょう。

ところが擬似同期では、1ヶ月に1000の参加で、非常に盛り上がっているような効果をユーザに見せることができるわけです。



擬似同期とは少し話が離れますが、システム運営側が求めるユーザ数について、ドラゴンクエストⅨのすれ違い通信を例にとって考えてみましょう。

すれ違い通信とは、DSの対象ソフトを待機状態にして、同じソフトを待機状態にしているユーザと接近すると、通信が行われるというシステムです。

ドラゴンクエストⅨでは、このすれ違い通信を利用して、地図を交換できるというシステムを採用し、話題になっています。

しかし、すれ違い通信は「待機状態にしてとりあえず放置しておけばいい」という参加の緩さはあるものの、通信が発生するタイミングについては「時間」と「場所」の双方が条件になる真性同期のシステムです。

このシステムがドラゴンクエストⅨで成功しているのは、ドラクエⅨをやっているユーザが多いことに依存しています。

ドラクエだからすれ違いが発生するけど、他のマイナータイトルのゲームで同じことをしたら一週間待機状態で街をうろついても1度もすれ違わないという事象が発生してもおかしくはありません。(その場合は他のユーザとアポを取って通信するような工夫をユーザ側ですることになるのでしょうが)

もしマイナーなゲームが、ドラクエで現在行われているようなすれ違い通信を実現したいと考えた場合は、短距離の通信ではなく、ユーザの動きをネットワーク上で共有し、同時でなくても同日に同場所を通ったとか、MAP内の同座標に同時に出現したなどの条件判定で成立させるような、擬似すれ違い機能を組み込む必要があるかもしれません。(そんなすれ違い通信が楽しいかどうかは分かりませんが)

すれ違い通信の画面 すれ違い通信の画面

このモードで放置して都心を持ち歩いていれば、けっこうな数の通信が発生するらしいです。

ドラクエⅨのユーザ数を持ってすれば、富士山ですれちがい通信をやってきたら、2人とすれ違ったというにわかには信じ難い現象を発生させたりも出来るようです(実話らしい)。

【参考】富士山6合目で「ドラクエIX」仲間に出会う
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0908/11/news073.html
擬似同期のメリットその2(参加の気軽さ)
この項の内容は擬似同期よりも、選択同期と呼ばれる話に近いかもしれません。が、その辺を細かく説明し始めるといつまで経ってもラブプラスに辿り着けないので、擬似同期の1要素として扱ってしまいます。

今、あなたの携帯に知り合いから電話がかかってきたとします。この時、あなたはおそらく電話を取ってその知り合いと話をするでしょう。

もし、その知り合いに対して「今はあまりこいつと話したくないなぁ」と思っていたとしても、かかってきた以上、シカトしたりはせずに電話を取ってしまう場合が多いのではないでしょうか。

真性同期によるコミュニケーションには、このように、気分が乗らなくてもコミュニケーションを強要されるという側面があります。

擬似同期では、同じ時間、同じ場所でメッセージを交わしているわけではありません。その為、特殊なケース以外では他人から話しかけられたりしません

SNSのmixiを使用している人の中には、日記やコメントに対してレスをすることが義務化され、それを負担に感じるというケースが報告されています(mixi疲れの一因とも言われている)。

mixiのページ mixiの個人トップページ

マイミク相手のメッセージや日記の更新情報などが表示される。

mixiを利用したコミュニケーションは、時間と場所を限定する真性同期ではないものの、個人を特定できる状態での付き合いをしている。

その為、携帯で電話がかかってきた時と同じくシカトしづらいという特徴がある。



擬似同期ではそういった義務を発生させることなく、負担の少ない疎なコミュニケーションが実現できます。

擬似同期におけるコミュニケーションの気軽さは、Twitterの人気の一因とされています。

TwitterはMAX140文字という規制の中で気軽に「思ったことをつぶやく」ことができるWEBサービスで、誰かに話しかけたり、誰かに返事をしたりすることを目的としたシステムではありません。

その為、誰かが発言したからと言ってそれに反応する必要もない、非常に疎なコミュニケーションを実現することができます。


また、前述のデモンズソウルの血痕システムなどのように、ユーザがただ普通にゲームをプレイしているだけで、他のユーザとの疎なコミュニケーションを自動的に発生させてくれるシステムも存在します。

このように、擬似同期によるコミュニケーションは、真性同期のように密な意思疎通はできないものの、ユーザに義務を発生させない、負担が少ないものになっています。
ラブプラスについて
さて、長々と擬似同期について書いたところで、ようやく本題のラブプラスについてです。

ラブプラスは「ときめきメモリアルから15年」などの言葉が枕詞につくような恋愛シュミレーションゲームで、最近はブログやニュースなどで(良くも悪くも)話題になっています。

ラブプラスが何かを知らない人の為に、どんなゲームなのか、その要素を箇条書きにしてみましょう。二次元上級者向けの内容なので、その手の話に免疫がない方は、理解できるよう努めながら読んでみましょう。

・ハードはDSなので常に携帯することができる
・ヒロインは3人いて、主人公はゲーム序盤でそのうち1人から告白される
・告白された後はデートをしたりメール交換をしたりといった普通の交際を延々と楽しむモードになる
・DSの内蔵時計を使って、現実の時間とゲーム内の時間が同期している
・クリスマスの日とかは特別にイベントが起きる(たぶん)
・ヒロインの誕生日は1年に1回だけ祝える(たぶん)
・日付と連動したイベントが4000くらい用意されている(らしい)
・彼女に会う約束した場合、現実のその日にDSの電源を入れて会わなければいけない
・約束した日に電源が入ってないと、約束をすっぽかしたことになる
・タッチペンで頭をなでてあげるなどして彼女とコミュニケーション
・キスをする時のアクションもタッチペンで再現している
リアルに彼女が出来たような気分になれるらしい



ラブプラスのヒロインの1人 ヒロインの1人、小早川凛子さん

ヒロインは3人とも女子高生です。左の小早川さんの特技はチョップと膝かっくんだそうです。

3人のうち誰の画像をここに載せるかは人気を見て決めようかと思っていたのですが、鯖缶の絵があまりに印象的だったので無条件で彼女を載せることにしました。ちなみに鯖缶は主人公の好物だそうです。

ゲームの序盤で、3人のヒロインのうち、懇意にしていた1人から告白されることになり、その後、蜜月生活を送ることになるのがこのゲームの醍醐味のようです。

より詳しく知りたい方は、下記のページを見るとよく分かると思います。




要約すると、「DSの携帯性」と「現実時間との同期」を活用することで、虚構と現実の距離をより縮め、あたかも現実に彼女が出来たかのような気持ちになれるゲームのようです。

この説明を見て、「すげぇ!」と思った人、「これを待っていた!」と思った人、「ごめん、無理」と思った人、「見なかったことにしよう」と思った人、「正直、キモい!」と思った人、「女性用はいつ発売になりますか?」と思った人など、様々な反応があると思いますが、今回はそういった感情的な面は無視して、このゲームが提示した新しい方向性での擬似同期について、冷静に考えていきたいと思います。

あえて主観を書くとしたら、筆者的には「女性であることを隠して男子校に入ったヒロイン」とかがいたら、購入を考えたかもしれません。「異性に抱きつかれると動物に変身する女性」とかでもいいですね。あっ、せっかくなら人間と同サイズのまま猫に変身するとか。変身した彼女の姿を見るとみんな驚いて「キャー」と言うような容姿とか。うはっ、これはいける。
ラブプラスが持つ時間軸の同期性
ラブプラス自体は、本記事の前半で述べたような、擬似要素と場所を同期させるようなシステムは保持していません。

彼女通信モード(複数のユーザが集まって通信し、お互いの彼女を交流させる)という、変態 通信機能は用意されていますが、これは同じ場所、同じ時間に集まって通信しなければならない真性同期機能です。

【参考】旧はちま起稿 - DS『ラブプラス』は同時に最大3人の通信が可能、自分の彼女を自慢しよう!
http://hatimaki.blog110.fc2.com/blog-entry-1262.html

それ以外には他のユーザとコミュニケーションを図るツールは用意されていません。

というか、二次元の彼女と交流をするゲームに他のユーザという要素を混入する意味があるかと考えれば、普通はそんなもの必要とされないのではないかと思われます。

しかし、そうでありながら、ラブプラスは擬似同期の1つの方向性を有しています。

これは、いつ購入したユーザでも、ヘビーユーザでも、ライトユーザでも、ゲームの時間軸上では同じ時間に位置しているという同期生です。

ゲームを始めたタイミングやプレイ時間はズレているのに、ユーザ間のゲーム内での時間(季節)は揃っているのです。

これを図にすると、こんな感じになります。

ラブプラスの擬似同期図

この現象をうまく利用すると何ができるでしょう。

仮にラブプラスのアクティブユーザ数が6万人だったとします。各ユーザが選んだヒロインが均等に分散していたとすると、1人のヒロインを「彼女にしている」ユーザ数は(ヒロインは3人なので)2万人になります。

各ヒロインにはそれぞれ誕生日が設定されています。例えば高嶺愛花さんの誕生日は10月5日です。この文章を書いている今現在は9月26日です。あと1週間ほどで誕生日がイベントが発生します。

試しに2chの関連スレを見に行ったら、「誕生日プレゼントは何を買った?」という話題がいくつか見られました。

10月5日には2万人が同時に彼女の誕生日を祝うという現象が発生するわけです。(※2万はあくまで仮の数字です)

これは前述の擬似同期のような他のユーザとの何らかの接触(ニコニコ動画ならコメントによる他者との接触)があるわけではありませんが、今現在、同じ事をしているユーザがいるという時間軸の同期を作り出すことができます。
テレビとラブプラスの時間軸同期の違い
時間軸の同期は、テレビでは当たり前のように発生する要素です。

例えば朝、会社や学校へ行った時に「昨日、あのドラマ見た?」とか「昨日のWBC決勝、見た?」などといった話題が出るのは視聴者の時間軸が同期していることから発生しています。

大きなスポーツイベントが盛り上がるのは、そのイベントの質の高さだけでなく、周囲もそれを見ていて、話題を共有できる点にあります。

スポーツの試合結果やテレビ番組のような、提供される時間が固定されたイベントにおいては、こういった同期は元々発生していたものですが、ゲームや擬似同期生のあるサービスなどのいつでもユーザが望む時間にできるタイプのサービスで、意図的に行われる例は少なかったと記憶しています。

(※どうぶつの森ユーザにとっては、既に常識だったりするのだろうか。この点、未調査)



ラブプラスにおける時間軸の同期はテレビのそれとは大きく異なる部分があります。

それはインタラクティブ要素が備わっていることです。

通常のテレビ番組は、分岐や選択などの要素が無い一本線です。

テレビにおけるインタラクティブ性

テレビは誰が見ても(捉え方が違うことこそあれ)同じものが見えます。ユーザはただそれを受け入れることしかなく、参加や選択などの要素は入っていません。

ユーザアクションの乏しさは、テレビがWEBに対して劣っていると言われる点でもあり、同時にユーザがアクションを求められないことは、WEBよりも気楽だと捉えられる点でもあります。

その良し悪しは別として、対するラブプラスは、時間軸において同期していながら、同時に適度なインタラクティブ性を有しています。

ラブプラスにおけるインタラクティブ性

ゲームやWEBが持つ、インタラクティブ性を失わずに、同時にユーザ同士の時間軸の同期を実現しているという点で、ラブプラスがテレビとはまた別種のものだということが分かります。



ニコニコ動画でこれに似た現象をあえて取り出すとしたら、「兄貴誕生祭」という現象が挙げられると思います。

これはニコニコ動画内で非常に人気がある「兄貴」(ビリー・ヘリントン氏。ファッションセンスに定評がある)の誕生日を前にして、関連動画が急激に再生数を伸ばしたり、大量に投稿されたりした現象を指します。

森のフェアリー、ビリー・ヘリントン氏 森のフェアリー、ビリー・ヘリントン氏

ニコニコ動画内でカルト的な人気を誇るスター。

誕生日は7月14日。2008年のこの日には、ニコニコ動画のランキングの9割が兄貴関連で占められるという現象が発生したらしい。

【注意】
兄貴関連の動画は上級者向けの内容が多く含まれて居ます。
初心者はけして手を出してはいけません。

兄貴誕生祭という現象には、「擬似同期」(ニコニコ動画のコメントシステム)、「インタラクティブ性」(多数の動画からの選択や、投稿・コメントなどの複数のユーザアクションが可能)、「時間軸同期」(誕生日という一点に対する同期)の3種が融合した形が見られました。

ただし、これはシステムの管理者側が意図したものではなく、ユーザによって自然発生的に作り出された時間軸同期であると言えます。

WEBサービスで実際にこの3種が融合した現象をシステム的に発生させることを意図した場合に、下手に「皆さん、今日はこの情報に同期しましょう」といってユーザに対して1つの方向性を指示してしまうと、それはWEBの持つユーザの選択性という長所を捨てて、テレビ方向の同期を作り出すことになってしまいます。

WEBによる3種の同期を同時にを実現するには、「擬似同期」をシステム的に準備し、その同期される情報に「時間軸情報」や「季節情報」などを付加し、ユーザの選択がなんらかのタイミングで偏ることができるようシステム側で用意しておく方式が有効ではないかと思われます。
現実と虚構の同期
さて、コミュニケーションに関する擬似同期の話は以上で終了です。

最後に、私がもう1つ注目している、現実と虚構の同期について、さらっと意見を書いておきます。

ラブプラスというゲームの中で私が最も気になった点は、現実と虚構の同期方向についてです。

これまで、一般的なゲームは、現実と似た虚構世界を提供し、その中でユーザを活動させるサービスを提供してきました。

一般的なゲームの立ち居地

これはリアルタイム性が強いMMORPG(マルチプレイヤーオンラインゲーム)などで顕著に見られた方式です。

しかしラブプラスではマルチプレイという要素の代わりに、ゲームの要素を現実に投影するファクターを多く用意することによって、ゲームに深みを与えています。

ラブプラスの立ち居地

数年前まではゲームの主流はPS2などの設置型でした。また、パソコンの端末もノートを持ち歩く人は少なく、デスクトップが主流でした。

それが現在では、DSやPSPなどの携帯用ゲームの伸びが顕著であり、また、iPhoneやAndroidのような携帯型プラットフォームの能力も飛躍的に伸びています。

デスクトップ型の端末は自宅というプライベートな空間でプレイすることから「現実の中に虚構を投影する」よりも「現実に似た虚構を作り出す」ことに向いていました。

しかし、モバイル端末はどこにでも持ち運びができ、またデスクトップ機ほど画面が広くないことから、周囲に見える現実と融合し易いという特徴があります。その為、「現実の中に虚構を投影する」ことが設置型の端末よりも実現し易い傾向にあります。

今後の携帯端末の現実投影イメージ図
現実への投影図 左は周囲の景色と携帯端末が同期したイメージ図です。

携帯端末では、ユーザの視界に現実とゲームの双方が同時に収まる機会が多い。

今後はカメラ機能やGPSを使用した、周囲の風景や所在地などと同期したサービスが現れることも予想される。

モバイル端末の能力向上により、今後はこの手の「現実への虚構の投影」という方式も1つのトレンドになっていくのではないかと思われます。iPhoneのアプリなどを見ていると、とうに始まっているような気もしますが。

【参考】iPhoneを電脳メガネにする「Sekai Camera」がすごい件
http://blogs.itmedia.co.jp/closebox/2008/09/iphonesekaicame.html

【参考】フロントガラスに速度や方位などの情報を投影する『aSmart HUD』
http://ipodtouchlab.com/2009/09/iphone-asmart-hud-451.html
まとめ
以上、ラブプラスに見る時間軸方向の擬似同期に関する考察でした。

当初は2~3時間で書ける内容を考えていたのですが、調べていたら無駄に調査範囲が広がって収拾がつかなくなりそうになったところを、なんとか自分が書ける範囲に押し込めていたりしたら、こんな内容になりました。

まだ調査したい範囲は山ほどあるのですが(どうぶつの森とか、iPhoneアプリとか)、その辺はおいおい調べて、結果は(まとめるのは面倒なので)私の胸の中にひっそりとしまっておきたいと思います。